灯影 ―― 詩
この指がなければ。
僕に何が出来るのだろうか。
足がなければ、何が許されているのだろうか。
声がなければ、何かを許されるのだろうか。
百年、二百年。
これから先、安らかに眠るために。
一体どれだけ払えば、その権利を売ってもらえるのでしょうか。
指がなければ、何かから解放されるのだろうか。
足がなければ、何かから解放されるのだろうか。
しがらみからも、夢からも解放されて。
静かに横になることができるのだろうか。
見えなければ、許されるのだろうか。
知らなければ、許されていいのでしょうか。
ならば僕は、知り得なければ、つらくないのでしょうか。
この指も、足も、声も、目も。
映るものすべてと、聞こえるもの全て。
モノトーンにそれが、静止映画のような断続的な音をたてて。
カラカラ、カラカラと動いているのです。
耳障りなその音は。
僕にはどうすることもできないのですけれど。
その音を立てなければ、機械は動かないと。
みんな、言うのです。
その通りなのでしょう。
多分。きっと。
世の中には、音を立てずに映写せる機械が沢山ありますが。
僕が触れるものは、今にも朽ちて落ちそうで。
虫食いの穴を所かまわずに開けながら。
カランカランと、それでも回り続けています。
指がなければ、フィルムをなぞることはできないのかもしれません。
声がなければ、アテレコの必要もないのかもしれません。
この目がなければ、耳がなければ。
まわっていることに、気付かないのかもしれません。
カラカラという、腐った音を聞きながらいつも思うのです。
何がなければ、目をそらすことが許されるんでしょうか。
気づけば誰も、周りに座っていませんでした。
朝も、昼も、夜も。
映写機は回り続けています。
劇場は暗く寒くて。
非常口が、ずっと、ずっと遠くに見えます。
一度、外を見たことがありました。
そこには同じような寂れた劇場が、ずらずらと。
連なっているだけ、だった。
端から腐って崩れていくのを、いろいろな人が待っているのかもしれない。
そう、なのかもしれない。
足がなければ、誰かが来てくれるでしょうか。
腕がなければ、係員が来てくれるでしょうか。
この劇場の椅子は臭くて汚くて。
横になることが、できないのです。
ねえ。
誰か、見ているのでしょう。
何がなければ、出してもらえますか。
指がなければ。
足がなければ、許してもらえますか。
でも、それはきっと。
とても痛いの、かもしれません。
痛みを避けようとして、ただ安穏と座りつづける。
そんな僕には。
朽ちていくのがお似合いだと。
誰かは、哂っているのかもしれません。
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