ラルロッザの学園都市 SS28
ギャグ編 SS28 家政婦は湯煙の向こうに
下町での買い物を終え、学園寮に戻ろうとしていた夏妖精の少女、アルヴァロッタ・アークシーは、沈黙しながら眼下の少女と見詰め合っていた。
自分を殺意を込めた目で見上げているその子は、やけに小さい身体に、お尻の辺りからぴょこんと九本の黄色いふさふさした尻尾を伸ばした女の子だった。
薄汚れた家政婦の服(メイド服)を着ている、見るからに平民だ。
本来なら平民が貴族であるロッタを真正面から、明らかに殺意のこもった瞳で見つめることは許されるべきことではないのだが。
ほぼ治外法権状態のこの学園都市では、まぁ時たま見る光景ではあった。
しかしこの場合、ロッタが戸惑っているのは。
身に覚えがありすぎて対応に困っているということだった。
ドラゴン族の国民アイドル的人気を誇っている生徒会長、センシエスタ・ノートランドと付き合っていて、あまつさえ子供を持っている(いろいろありましたがロッタの子ではないです)彼女は、学園内からもいろいろな勢力から恨みを買っている。
だからというわけではないのだが。目の前にちょこんと仁王立ちになっている小さなメイドを押しのけていくべきなのか、それとも声をかけるべきなのかどうか分かりかねていたのだ。
「……やっと見つけた……」
ボソリ、とそのとき、薄汚れたメイド少女が口を開いた。
金色というよりはキツネ色をした長い髪の家を、地面に引きずるほどのポニーテールにまとめている。
尻尾も合わせると十本のふさふさが揺れている。
わずかに震えるその声に、ロッタはバスケットを持ったまま苦笑いをして、極力刺激しないように言った。
「あ……あのぉ、あたし行っていいかな? 特に用がないなら……ちょっと忙しいんで……」
「黙れこの淫乱妖精!」
明らかに殺意をこめた怒鳴り声が周囲に響き、学生でにぎわっていた通りが、一瞬シン……と静まり返る。
そう呼ばれるのは慣れているので、ロッタはハァ……とため息をついてから口を開きかけた。
それにかぶせるように、キツネのような少女はスカートに手を突っ込んでごそごそやりながら、涙をこんもりとためた目でロッタをにらんだ。
「も……もう逃がさないんだから!! ここで会ったが百年目やぁあ!!」
「まぁとりあえず落ち着いて。あたしちょっとやそっとじゃ死なないから、滅多なこと言わない方がいいわよ」
「くゥゥゥゥ! 余裕ぶっこいてる!! ムカつく!! この女(あま)ァァ!!」
全然迫力がこもっていない子供声で絶叫すると、彼女はスカートのポケットからズルズルズルズルと、なにやら長い、黒光りするものを取り出した。
どこにそれだけの質量が収まっていたのかと思うくらいの、長大な片刃の剣だった。
切れ味が抜群といわれる東方(シェルンクロスト地方)の刀だ。
鞘を抜き放ち、騒然とし始めた周囲をよそに、キツネ少女は
「往生せいやぁぁああ!」
と絶叫して問答無用にロッタに、大上段に斬りかかってきた。
夏妖精はひとつ、ふぅとため息をついてから、大きな胸をそらすようにして、自分に向かって振り下ろされる、渾身の斬撃をやる気がなさそうに見た。
「殺し合いだ!」
「またアークシー様だ!」
「巻き込まれるぞ逃げろ!!」
「魔獣駆除委員会に連絡しろおおお!!」
と阿鼻叫喚の怒号が飛び交うギャラリーを一瞬横目で見てから、ロッタは頭に向かって正確に振り下ろされた刀を、そちらを見もせずにひょい、と左手の人差し指と中指で挟み止めた、
そしてきょとんとしたキツネ娘の手からあっさりと刀をむしりとり、容赦なくアームロックをキメる。
騒然として、何故かカウントをとっている野次馬の中心で、鉄のような目でロッタはニヤリと笑った。
「悪いけどあたし、相当不意討ちには慣れてるから。声をかけずに後ろから殺るべきだったと思うな」
「くっそぉ!! 殺せっぇえ!」
「まあ話はとりあえず、署で聞くから」
コキッと首を軽く横にひねって黙らせてから、ロッタはバスケットを優雅に手で持ち、そして少女を軽々と肩に担ぎ上げた。
そして鼻歌を歌いながら、モーセのようにギャラリーの波を割って学園へと歩き出す。
唖然とした視線を浴びながら、ロッタは手を上げて学園行きの馬車を一つ止め、中に女の子を投げ込んだ。
「……で、獲得してきた賊がこれか……」
一連の話を聞いて、深いため息をついて牛角の少年、ゼマルディ・クラウンが頭を押さえる。
西生徒会の第十五生徒会室の隅、その柱に、口にガムテープを貼り付けられ、後ろ手にロープでぐるぐる巻きに固定されたキツネ娘を、ロッタが無表情で見つめていた。
そして隣の椅子にゆっくりと腰を下ろし、ゼマルディの方を見ながら、彼女が持っていた刀を手で弄ぶ。
コツ、コツとむき出しの切っ先が縛られている自分の前で往復するのを、真っ青になりながらキツネ娘が見ている。
「うん。どうする? とりあえず奥歯から一本ずつイきましょうか」
「やめろよ……まだいたいけな子供じゃないか。見たところメイドみたいだから、奉公先に連絡して引き取ってもらうだけでいいだろ。どーせまたノートランドのファンとかじゃないのか?」
「そうだと思うんだけど、何せ私殺されかけたから、このまま素直に解放するのもどうかと思うのよ」
「目が笑ってねぇぞ! どうせ殺してもお前、死なないんだからいいじゃねーか! 日ごろ晴らせない鬱憤を小市民に当てようとしてるんじゃねーぞ!!」
「あれ? 何で襲撃されたあたしが非難されてんの……?」
「自白剤の準備は出来ていますけれど、どうしましょう?」
ほんわかした声で、実に優雅な充実した微笑を浮かべながら、奥の仮眠室から車椅子の人魚、アイカ・マロンが出てくる。
湯気の立つ、ボコボコと異臭のする紫色の液体が入ったフラスコを手で持ちながら、にこっと縛られている少女に微笑みかける。
「イチゴ味にしてみました~」
「静脈にいれましょう」
「やめろ!! 何を白状させる気だ!!」
ゼマルディの全力の突っ込みで止められ、不満そうにアイカが頬を膨らませる。
「何ですの。面白みのない男ですわね。折角こう、健康な検体が手に入ったんですから、もっといろいろ普段出来ないあんなこと! やこんなこと! をしたいとは思わないんですか?」
「検体じゃない!! そういうのはノートランドで試せ!!」
ゼマルディがそういった途端、キツネ少女がビクリとして、そして殺気のこもった目を彼に向ける。
なにやら呻いて抗議しているようだが、よく分からない、
その目の前の床を、刀でキキ……ィ……と引っかきながらロッタはかったるそうに言った。
「うーん……じゃ、もうマルディに任せていい? あたしリンの世話もあるしもう帰りたいんだけどさ……」
「むしろお前ら二人はとっとと帰ってくれ。あとは俺が何とかするから」
「失礼な。ロッタはともかくわたくしを邪魔者扱いするんですの!? 折角作ったんですのよこれ!!」
「クスリから離れろ。だからノートランドか、もしくはにゃんこに飲ませろよ。お前の協力には感謝するよ」
「てゆうか襲われたのあたしなんですけど。刀で。そのへんについてはスルーするわけ?」
「刀くらいで死ぬんなら、お前もうとっくに死んでるんじゃないか?」
そう言ってゼマルディは、何ともいえないアンニュイな目でキツネ少女を見た。
「君も災難だったな……アークシーを殺りにいくんだったら、もうちょっと考えないと。せめてあと二人くらい伏兵がいれば、いいところまでいけたかもしれないのに……」
「いやだから、被害者はあたし。何? あたしラスボス?」
そこで、ポン、と音がしてエレベーターのドアが開いた。
そしてやる気がなさそうな顔で、大あくびをしながらドラゴンが中に足を踏み入れる。
入ってきたセンは、縛りつけられている女の子と目を合わせると、しばらくポカンとしたあと、手にしていたカバンをボスッ、と床に落とした。
「アラリス!?」
彼の声を聞いて、ぶわっとキツネ少女が目から大粒の涙を溢れさせる。
「ん゛ん゛ん゛っぅ゛! んぐふ゛ん゛ッ!!!」
「何やってんだお前!? いや何をされてるんだ!?」
懸命にうなずいている彼女と自分の彼氏を見て、ロッタは大きくため息をついた。
センの背後に隠れて、九本の尻尾を孔雀の羽のように広げ、フーッ、フーッとロッタに威嚇を繰り返しているキツネ少女を見てから、ロッタは重苦しく低い声を発した。
「誰よその女……」
「誤解だ」
即答したセンにゼマルディが首を振る。
「とりあえず怒られたらそう言うという条件反射はやめろ」
ひとまず生徒会員は席についているが、余程恐ろしかったらしく、アラリスと呼ばれたメイドはセンの背後から動こうとしなかった。
体中の毛が逆立って、ブルブルブルブルと震えている。
「あたし殺されかけたんだけどさ……何? いつの女? 何ヶ月前の女?」
「生々しい話はやめろよ……」
「マルディは黙っててくれない? これ、家族の問題だから」
「ま……まぁ落ち着けよ。悪気があったわけじゃないんだろうし……」
懸命にロッタをなだめようとしているセンが、別に自分が悪いことをしているわけでもないのに段々と青くなっている。
反面イラつきを押さえようとせずに、ロッタはキリキリと刀の切っ先で床に傷をつけながら、目だけは笑っていない顔で彼を見た。
「悪気MAXじゃん?」
「いや……え? 何? お前殺されかけたの? 無理だろ?」
「たとえそれが無理なことだったとしても、やっていいこととやって悪いことがないかしら!?」
ロッタがそう言って、大理石の床に、絨毯ごとズン、と刀を突き刺して周りを見回す。
「あんた達はラスボスがラスボスであるという理由だけで倒しにいく自主性のない勇者であっていいっていうの!? 違うでしょ!! あたし達はあたし達の意思で生きていかなければいけないのよ!?」
「何言ってんだかわかんねぇよ。てゆうかノートランド、知り合いなのか?」
ゼマルディに聞かれ、センは半歩ほどロッタから距離をとりながらうなずいた。
「あ……ああ。いつの女とか、そういうことじゃなくてだな……」
「他に何の選択肢が残ってるっての」
「いや、俺の屋敷の、まぁつまり、東のフェルンクロストにある、ノートランド本家のメイドだ……」
そこまで言ってセンはポカンとした周囲をよそに、背後で震えているアラリスを見た。
そして呆れたように口を開く。
「……お前、もしかして徒歩で来たの……? ここまで……?」
「な……長かった……長かった……ものすごい長い道のりでした坊ちゃま!!」
バッ、とセンの首に抱きつき、アラリスは両の目からものすごい勢いで涙をこぼし始めた。
「ひもじくてひもじくて死ぬかと……死ぬかと思いました!!」
「てゆうかマジで殺されかけてたような……」
「坊ちゃま!! アラリーが来たからにはもう安心です。奴ですか? 奴が悪いんですね!?」
横柄に指を指され、ロッタがピクリと鼻の脇の筋肉を痙攣させる。
その視線におびえるようにセンの背後に隠れ、アラリスはガクガク震えながら続けた。
「もう安心してください!! 今お助けします!!」
「メイドって、明らかにこれ、初等部くらいの子供じゃんか。フィルといい勝負だろ」
その様子をボーッと見つつ突っ込んだゼマルディに、センが腰を浮かしかけているロッタからアラリスを庇いながら言った。
「いや……ノートランド家のメイドは家督制で、こいつは本家本元の、由緒正しきメイドの分家の、その分家の子供だ。一応、生まれた女の子は5歳くらいから既にメイドの教育をされてるから……」
「お前何歳の時にその子にツバつけたんだ……? それ、年齢詐称(フィル)じゃなくて、モノホンの一桁……」
「刺激を誘う台詞を吐くな! アークシーを止めろ!!」
刀をずるっと床から抜き放ち、目を赤く発光させはじめたロッタを見てセンが絶叫する。
「え? 何? 俺なんか悪いことした!?」
「頑張ってください坊ちゃま! アラリーはここで、渾身渾命坊ちゃまを応援しています!!」
両手を脇で固め、背後でしっかりとうなずいたアラリスにセンは激しく首を振った。
「いやいやいや何で戦う流れになってんの!? お前俺のこと助けに来たんじゃなかったの!?」
「無理です坊ちゃま!!」
「しっかりと諦めましたわね……」
アイカが頬に指を当て、ふぅとため息をつく。
「何ですの……ノートランド本家のメイドさんですか。詰まりませんわ」
「これ以上面白い獲物はいないと思うけどな……」
ロッタがガタリと椅子から立ち上がって、刀を杖にセンを見下ろす。
「まぁ殺す前にもう少し釈明させてもいいんじゃないでしょうか? チャンスをあげましょうよ。ロッタ」
「殺すの!? お前何したんだ!?」
状況を把握できていないセンがビクッとする。
「アラリーは坊ちゃまを惑わす淫乱妖精を征伐に来たのです!! みんなで奴だけは殺すと決めたのです!!」
センをぐいぐいと前に押しやりながらアラリスが、子供とは思えない危険な台詞を連発する。
「じゃあお前が戦えよ!!」
「アラリーはまだ死にたくはありません!!」
「意味わかんねぇぇ!! 何? 俺この状況でどういう行動を取れば正解なの!?」
「なんかもうなりふりかまわなくて、見てるこっちが申し訳なくなってくるな」
「ええ」
ゼマルディとアイカの前で、しかし刀を振り上げかけていたロッタは、寸前のところで沈静したのか、額を押さえてまた椅子に座りなおした。
そして大きくため息をついてアラリスを見る。
「……子供だから結界も問題なくすり抜けてきたのね……親御さんが心配してるわよ。早く帰りなさい」
「うるさぁい! 知ったような口をきくな!!」
キャンと言葉で噛み付かれ、ロッタはしかし、それで完全に対抗する気を失ったのか、興味がなさそうに腕組みをして彼女を見下ろした。
「ノートランドも。本家から来たんでしょ? はやいところ送り返さなきゃ。ただでさえあたし達は今、何かもうとてつもなく危うい橋に乗っかってるんだから、これ以上の面倒ごとはごめんよ?」
「いや、送りかえすつっても……そもそも、お前なんでここに来れたんだ? 徒歩でも一ヶ月はかかるだろ。他のメイドは止めなかったのか? 金は?」
センに聞かれ、アラリスはロッタの視線からじりじりと身体を離しながら答えた。
「お金は、みんなで少しずつ出したのです。でも、二週間目になくなって、それから何も食べてませんです」
そう言ってから初めて、彼女は自分が今、ものすごい空腹のさなかにいることを思い出したらしかった。
よく見れば目にクマが浮いていて、ただでさえ小さい頬がこけている。
ハッとしておなかを抑え、ヘナヘナとその場にしゃがみこむ。
「そういえば……おなかがすきました……」
「おい、大丈夫か? 何かお前、ものすごく魔力が小さくなってるな。どのくらい飯食ってないんだよ」
「ひいふうみい…………ななつの三倍ですから、そろそろ三週間くらいになります……」
「救急馬車呼べぇえ!!」
慌ててセンが声を張り上げる。
ポカンとしてゼマルディとアイカが、また顔を見合わせた。
アラリスがザインフローに来ようと決意をしたのは、たまたま魔導テレビの特番でやっていた、学園都市の温泉めぐりの番組に、ロッタが学生アイドルの代表として出ていたのを見たかららしかった。
「あぁアレ……」
頭を押さえてロッタはまた深くため息をついた。
第一病院に搬送したアラリスは、今のところ点滴をされて眠っている。
なんだかいろいろ麻痺していて自分でも分からなくなっていたようだが、医者はこれだけの消耗の中、動いていたこと自体が奇跡だと言っていた。
結構魔力の格式が高い種族らしく、体内の魔力が多かったため死には至らなかったようだが、普通の魔族が三週間も断食したら、普通死ぬ。
眠っているアラリスを見下ろして、センは困ったように頭をガシガシと掻いて口を開いた。
「で、お前の乳があまりにもでかかったから、みんなでお前を殺すことを決めたらしい」
「そこからそう繋がる思考の流れをもっと詳しく聞きたいわね」
「本人に聞けよ……てゆうか、ノートランド家の中じゃお前相当有名人だから、テレビに普通に出てるのとか、結構ヤバいのかもしれないな……」
ザインフロー学園の第一貴族生徒会となると、美貌や才能、魔力や格式をかね揃えている者が大半を占める。
今日は来ていないが、怪鳥族のクヌギ・トランスが世界の陸上大会で優勝成績を残しているのが、その最たる例だ。
センやロッタは、特に身分などに気をつけるようなそぶりも気分もないため、最近は学業の傍ら近くのテレビ局にレギュラーとして出演していることが多かった。
ロッタは副収入が増えると喜んでいたが、そう楽観もしていられないようだった。
「でもあの番組って、この地域にしか電波は飛ばされてないんじゃなかった? あたし、そう聞いたから出てって脱いだのよ」
「いまだに、俺もその『出て→脱ぐ』のプロセスに至るまでの思考の流れがわかんねぇよ」
「いーじゃない別に。バスタオルはしてたんだから。いまさら失うものは何もないわよ。あれでバカなカモ(男)がつれるんだったらいい撒き餌よ。この前写真集だって出たんだから、宣伝するに越したことはないじゃない」
「すっかり何か業界に染まったアイドルになりやがった……いや、まぁそれはいいんだけどさ……まぁ多分魔法だろうな。こいつら、俺のことが気になったか何だかで勝手にこっちの電波調べてたんだ。普通メイドは、屋敷の外には出れないからさ」
そこまで言ったところで、アイカが息をついて、指を顔の前でくるくると回した。
「でも、一応は格式があるメイドなんでしょう? いなくなって気づかれないってことはあるんですか? いくらなんでも分かりそうなものですけど」
「こいつは孤児だ。俺が拾ってきた」
センがそう言うと、ロッタが発しかけていた言葉を飲み込んだ。
「分家の下に、そういう子を連れてきて放り込んでおいたんだけど、どうも、俺がいなくなってから監督が上手く行き届いてないみたいだな……ぶっちゃけ、庭師に近いから、別にいなくなっても困ることはない」
「そういうことね……」
「じゃ、金を出し合ったってのは、その分家の下のメイドがみんなでってことか?」
ゼマルディが聞くと、センは少し考えてからうなずいた。
「まぁ……そうだろうなぁ。よほどアークシーの乳が逆鱗に触れたらしい」
「分かったわよ……もうあたし番組で脱がない……めんどくさい世界ね……」
「そういう問題ではないと思いますけど……」
「どうすんだよ? 送り返せないのか?」
「つっても、俺は今実家とは断絶状態だから、無理だな。逆に俺があっちに接触したら、大問題必至だ。一応ルイに言って、連絡してもらってはみる。でも、そもそも俺たちはここに逃げ込んだ形だから、期待は出来ないぞ」
携帯を取り出し、センがボタンを押しながら病室を出て行く。
息をついてロッタが、鞘に収めた刀に寄りかかるようにして壁に背をつく。
「はるばるあたしを殺しにねぇ……ハタ迷惑な話だわ。自分が死に掛けてりゃ世話ないじゃない」
「お前はもう少し子供を大切にしろよ……」
「いっそ殺されてあげれば納得するんじゃありませんこと?」
「何でひとごとだと思ってそう面倒くさがるかな!?」
疲れたように彼女が息をついたとき、首を振りながらセンが入ってきた。
「ルイがここに来るらしい。でも無理だって言ってヒステリってたぞ」
「じゃあ無理だな。あぁ、にゃんこに聞いてみろよ」
「電話が繋がんねぇ」
「またおっぱいパブじゃないですか? 地下だから携帯の電波が届かないんですのよ」
「使えねぇ伝説の剣豪……」
ゼマルディがぼやいた時、軽く呻いてアラリスが目を開けた。
そして自分を見下ろしているセンを見上げ、ほっと安心したような顔になる。
「坊ちゃま……」
「今魔力の濃縮液を点滴してるから、しばらくそのままでいろよ」
「うう……お助けしようと馳せ参じたのに、無様な限りです……」
「何? お前ら俺が乳で圧死するとでも思ったの……?」
「おのぞみなら殺すわよノートランド」
「ひぃっ! 奴がいる!!」
ガタンと起き上がろうとしたアラリスの頭を枕に戻し、センがまぁまぁと二人をなだめる。
「坊ちゃま。アラリーはみんなに託されたこの想いを、坊ちゃまに託します。必ずや奴を……奴を討ち倒してください……」
ガッとセンの手を握ったアラリスに、思わずゼマルディが突っ込んだ。
「助ける対象にゆだねてどうすんの?」
「アラリーの力が至らないばかりに……」
「…………お前何しに来たの……?」
「彼女奴の処刑をば……」
「あぁ、もういいしゃべるな……」
ビクビクとしながらセンがそう言って、横目でロッタを見る。
それに呆れたように
「怒らないわよ」
と言ってから、夏妖精はキツネ娘を見た。
「まぁ、殺されてあげるわけにはいかないけど、見逃してあげるくらいなら別にいいわ」
両手で柄ごと刀を持ち、メキメキメキとへし折って、ガランと床に投げ捨ててからロッタは目を細めて笑った。
「そういうことで仲直りしない?」
「命だけは……」
へし折れた刀と共に心もへし折れたらしく、アラリスがプルプル震えながら命乞いを始める。
それに寛大にうなずいてみせてから、ロッタはセンを見た。
「じゃーどうすんの? この子。てかマジで何しに来たの? マジであたしのこと殺しにはるばる来たの?」
「それが半分、これが半分です……」
よろよろしながら上半身を起こし、アラリスは壁にかけてあった汚れたメイド服のポケットに手を入れた。
「半分はちょっと無理っぽいですけれど、半分は達成できました……」
そして中から、くしゃくしゃに歪んだ小さな箱を取り出す。
安っぽい装飾が施された小箱だった。
それをセンに差し出して、彼女は疲れた顔で言った。
「みんなからです……坊ちゃまお帰りにならないので、アラリーがお渡しに来ました……」
「俺に?」
そこで、察したらしくセンはそっと小箱を受け取った。
「ほんとは先輩達は全員止めました……でも、こっそり出てきたんです……本当はみんなで来たかった」
そう言って、アラリスは口をつぐんでしまった。
センは箱の紙を破かないように慎重に開け、蓋を少し開いて中を見た。
そしてすぐ閉め、ポンとアラリスの頭に手を置く。
「……ありがとうなぁ。わざわざ高かっただろう」
そう言って彼は、周りにみせることもせずに、すぐに胸ポケットの奥にそれをしまった。
「みんなで半年お給金ためたのです。それで……それで……」
ひっく、とそこで気がゆるんだのか、アラリスはまた目からボロボロと涙をこぼし始めた。
その頭を撫でてやりながら、センが軽く息をつく。
そして顔を覆って泣き出してしまったアラリスに、そっと言った。
「無理することなかったんだぞ。俺の方こそ、ずっと何の連絡もなくて悪かった」
「……坊ちゃまは……悪くないです……悪いのは……」
そこで彼は、慌ててアラリスの口を軽く手でふさいだ。
そして背後で少し青くなったロッタと目配せをする。
ロッタは、察したのか病室を出て行こうとしていたゼマルディとアイカの背後に続き、そして病室を締めた。
エレベーターで階下に下りながら、ロッタがボソ、と言った。
「ごめんね。でもあれ以上は聞かないほうがいいと思う」
それを受け、少し考えてアイカが口を開く。
「何ですの? あの子、何を渡したんですの?」
「魔宝石だったわ。蓄音機能があるタイプのね」
ロッタはそう言って、呆れたように大きく伸びをした。
「みんなとやらの声が詰まってるんでしょうよ」
「それで、あの子はどうなりましたの?」
数日後。休日明けにアイカに聞かれ、ロッタは登校途中の道、一瞬きょとんとしたあと、肩に担いでいたカバンを担ぎなおした。
「え? あぁ、あのキツネ? うん。役に立ってるわよ。意外といい拾い物したわ」
「使ってるんですか……」
「リンと精神年齢がほぼ同じだから、いい感じにあの子を操れる家政婦が手に入ったわ。何かいいわね、メイドって……」
アンニュイに言ってから、ロッタはわき道から合流したセンの膝裏に
「おはよう」
と挨拶代わりに皮靴のつま先をめり込ませながら言った。
そして悶絶している彼に聞く。
「キツネは?」
「あー、やっぱダメだ。ルイにノートランド家に連絡とってもらったけど、それだって裏ルートの連絡だし。表立って送り出すことも受け入れることも無理。脱走扱いだな」
「じゃやっぱり飼うしかないわねぇ……」
「ペット扱いですか……」
「いいんじゃない? 実力差も分かったみたいだし、適当にあしらっておけば、素直に家事もこなすし、いい子よ」
そう言ってロッタは、ふとカバンの取っ手に違和感を感じたのか動きをとめた。
そしてちょいちょい、と弄ってから立ち止まり、カバンを地面に置いてからおもむろに蓋を開ける。
バシュンと軽い音がして何かが中から、ロッタの顔面めがけて飛び出した。
それを軽々と指先で白羽取りをして、彼女はカバンの蓋を閉め、唖然としている二人を尻目に、鼻歌交じりで歩き出した。
指先に摘んだ小型ナイフがベキ、とへし折られる。
どうにも、蓋にスプリングをとりつけて飛び出すように細工されていたらしい。
「あぁ。またダメだったか」
センがそう呟いて歩き出す。
アイカはしばらく何かを考え込んでいたが。
やがてニッコリと微笑んで、彼の袖を引っ張り。
「今度あの子と、もっと効果的な人間の苦しめ方について話をしたいんですけれど……」
「何でだよ……」
「最近のロッタは強くなりすぎていますので、別の方面から攻めようかと……そうしたらもっと違うロッタの顔が見れるんじゃないかと……」
「自分でやりなさいよ……」
ああおくびをしてセンが歩き出す。
その胸には、ペンダントヘッドに挟み込まれた赤い魔宝石がかけられていた。
結
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コメント
今年の戦隊ヒーローメカの合体シーンで衝撃的な物が二話で出てきました。そうか、あの微妙過ぎる将棋の駒ぽい形態はそのためにあったのかと(マテ)YOUTUBE にも出てますのでもし興味が出たら是非観てください。吹きますから 絶対にw
投稿: シロガネ ケイイチ | 2009年2月25日 (水) 19時12分
ODENじゃないですか(笑)
シンケンオーのバトルだけを確認しましたけども、面白そうですな、シンケンジャー
こういうのは好きです。是非ともこれから頑張って欲しいものです
投稿: マツサガシン | 2009年2月26日 (木) 23時01分