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2009年2月13日 (金)

ラルロッザの学園都市 SS27

ギャグ編 SS27 怪盗馬ヘッド

 厳戒態勢が敷かれているザインフロー魔導学園の入り口で、第十五生徒会員達は、反面うきうきした顔で正面城門を見つめている小さな吸血鬼、フィルレイン・ラインシュタインを見ていた。
当のフィルは、青い顔をしている仲間達とは裏腹に、うきうきを前面に出した顔で、今か今かと城門の向こうを見つめている。
しばらくして、軍隊が城門周りや外に配置された中で、音を立てて跳ね門が開いた。
「アーンガット!!」
大声で執事の名前を呼んで、フィルがちょこちょこと走り出す。
入ってきた馬車から降りてきたのは、体長二メートルは超えるかというほどの巨大な、黒色の毛並みをした犬だった。
彼……動物の姿をした魔獣、ヘロケルンである執事、アーンガットはフィルを見ると、その緋色の目を金色に輝かせて駆け寄ってきた。
「おじょぉさまああぁあ!」
「アーンガット! 会いたかったよ! すごく会いたかったよ!!」

彼の首に抱きつき、フィルが何度もほお擦りする。その主の頬をペロペロと舐めながら、アーンガットは言った。
「いや、大きくなられましたな。見違えましたぞ。すっかり大人っぽくなられて……爺は感激でございます。主さまも、今のお嬢様の姿を見たら、感動のあまり卒倒しかねないほどです」
「アーンガットは全然変わりないね! 相変わらずすごく毛並みもいい!」
「ふっははっはっは!! そう言っていただけると老体に鞭いってここまで来た意味もあろうというものです。サト殿に前回は譲りましたがな。今回ばかりは爺が、お嬢様のお顔を一目でも拝見したくて参りました」
そこでぼってん、ぼってんと腹を揺らしながら……マントを羽織った二足歩行の、太った猫が近づいてきた。
そして両手を広げてアーンガットに向けて大声を張り上げる。
「トラレス!!! 久しぶりではないか!!!」
「その声はシュマルケン!? 何故お前がここにおる!!!」
目を丸くして、黒色の大犬は太った猫を見下ろした。彼、にゃんこ先生は太った腹を突き出しながら、懐かしそうにアーンガットの鼻先を肉球で撫でた。
「いやぁはやぁ、五十年ぶりか? 相変わらず変わらんなぁぁ!」
「そういうお前は少し太ったのではないか? いや、しかしお前に会えるとは思ってもおらぬかったぞ」
そこまでアーンガットが言ったところで、ぬっ、とフィルの背後に立っていた巨大な影が動いた。
小山のような大きさだが、山ではない。
巨人族の学園理事長、ルバロンである。彼は、やはり巨大な車輪つき点滴台をガラガラと動かしながら、彼らに近づいて身をかがめた。
「お久しぶりですな、アーンガット卿」
「おお。ルバロン理事。失礼。お嬢様があまりにもまぶしゅうて、挨拶を失念しておりました」
「無理もないことです。さて、さっそくですが本題に移りましょうかな。皆、少しばかり会議堂に集まってはいただけないでしょうか?」
丁寧に言われ、にゃんこ先生とアーンガットが顔を見合わせる。
黒色の犬は、背中にフィルを乗せると、のっしのっしと歩き始めた。

 「さて、今回アーンガット卿にお越しいただいたのには訳がありましてな」
そう言って、壇上に立ち、背景のホワイトスクリーンに教鞭を向けながら、巨人であるルバロン理事が口を開いた。
第五会議堂には、東西南北の四エリアの、それぞれ上級生徒会が集められている。
壇上の席の脇にはにゃんこ先生とアーンガット、そしてフィルの席まで作られていた。
ルバロンが合図をすると、魔導プロジェクターが動き出し、カラカラという音を立てながらスクリーンに画像が映し出された。
囚人が収監される時に取られる写真だ。
……頭部が馬の男性、年齢は十代前半だろうか。それがやる気のない表情で映し出されている。
ハンケンという、結構な権力を持つ魔族だったはずだ。
その写真を教鞭でパン、と叩いて、ルバロンは上級生徒会の全メンバーを見回して言った。
「つい昨日ほどに、西のサバルカンダ魔導刑務所から連絡が入りましてな。知っている者もいるかもしれないですが、この『怪盗馬ヘッド』がこの学園、ザインフローに入り込んだというのじゃ」
それを聞いた途端、ざわざわと会議堂内にざわめきが広がった。
前の方の座席に座っていた西生徒会の生徒会長、ドラゴン族のセンシエスタ・ノートランドが呆れた顔で呟く。
「……ンだよまた逃がしたのか、馬ヘッド」
「何それ? 馬ヘッド? 見たとおりだけどさ……」
隣の夏妖精、彼の彼女であるアルヴァロッタ・アークシーが言う。彼女の脇には十歳児ほどの少女、娘(非認知)のリンフロン・ノートランド・チェルサーが深々と椅子に腰掛けて寝息を立てていた。飽きたらしい。
ロッタの隣で興味がなさそうに欠伸をしてから、車椅子に乗った人魚、アイカ・マロンが口を開いた。
「知らないのですか? 西のサバルカンダ地方では結構有名な怪盗で、貴族の女の子限定で盗みを働く不届き者ですわ。神出鬼没の魔法を使うとか何とか」
「女の子限定……? 何か嫌な予感がしてきた……何盗むのよ、その馬ヘッドは」
「何でも、狙いを定めた女の子にまず白い薔薇を送りつけるらしいです。そしてその娘の身につけているもの……まあつまり、下着を、いかなる手段を用いても追いはぎっていく、つまるところ変態ですわ」
「同じようなのが壇上にいるじゃん!?」
ステージ上のにゃんこ先生を指差し(第十九話参照)ロッタが声を荒げる。
「厄介な性癖の変態がこれ以上増えて、どうなるのよこの世界!」
「まぁまぁ。あなたが狙われてるわけじゃありませんし……余罪は百五十を下りませんわ。逮捕回数も五十回を超えるのですが、そのたびに何故か脱走して、そして下着ドロを繰り返してまた捕まるという、どうしようもない変態らしいです」
「正真正銘の悪魔だわ……」
「一ヶ月くらい前に、西の魔導警察がとっ捕まえて五十九回目の収監をしたって聞いたんだけどな……やっぱまた逃げたか……」
センが呟いてため息をつく。
「てゆうか何でこの学園に……?」
そう言った牛男、ゼマルディ・クラウンの言葉をさえぎるように、ルバロンはパンパンと馬ヘッドの写真を教鞭で叩いてから言った。
「昨日未明、この馬ヘッドから、我がザインフロー学園の生徒である、このフィルレイン・ラインシュタイン嬢に予告上が届きましてな」
懐から白い薔薇と、何か妙な馬の刻印がついている封蝋がされたメッセージカードを取り出し、彼はひらひらと振った。
「このようなものが彼女の寮のポストに届けられたんじゃ。たまたまわしが居合わせましてな。全校生徒には秘密で、今現在この学園内は特A級の厳戒態勢が敷かれておる」
「はぁ……? ラインシュタインの下着なんて手に入れてどうするつもりなんでしょう?」
ゼマルディの隣に座っていた盲目のドラゴン、ルイシエンタ・ノートランドがそう言うと、隣で興味がなさそうに本を読んでいた幽霊、サラサ・メルがぼんやりと答えた。
「あー……何か、馬ヘッドってアレです。あのロリコン友の会(SS第十三話参照)の重鎮らしいですよ。今回アークシー様はそんなに警戒しないで大丈夫ですよ。多分ツルペタしか狙われませんから」
「何それ!? ロリコンの下着ドロ!? 最悪じゃん!?」
騒いでいる西生徒会を尻目に、ルバロンは一つ咳をすると、壇上のアーンガットに目をやった。
「皆も知っての通り、ラインシュタイン嬢は西の大魔王メルヘドス卿の娘であられる。もし万が一のことが起こっては大変なため、空間跳躍の秘法(禁呪です)で、アーンガット卿に急遽お越し願ったわけじゃ。生徒会の諸君には、馬ヘッドを捕獲するための手伝いをして欲しいわけでな」
コホンと喉を鳴らし、黒色の大型犬、アーンガットが口を開く。
「お初にお目にかかりまする。ラインシュタインファミリーの執事をしております、アーンガット・トラレスと申します」
彼の太い響く声を聞いて、さすがに生徒会員達がシーン……と静まり返る。
それはそうだ。全魔王中最強といわれる西大魔王、メルヘドス・ラインシュタインの執事。
つまるところ、実質的最強マフィアのナンバー2だ。
「今回はラインシュタインファミリーが総力を挙げ、馬ヘッド撃滅……拿捕に向けて助力をいたす運びになりました。至らないところも多々あるかと思いますが、皆様のご協力を仰ぎたく存じます」
「今さりげなく撃滅とか言ったぞ……」
ひそひそとセンが、反対側の脇で小さく縮こまっていた怪鳥族の大男、クヌギ・トランスに囁く。
それを煩わしそうに右手で振り払い、クヌギはさらに背中を丸めて小さくなった。
心なしかこちらを見て、アーンガットがピカーンと目を赤く光らせているような気もする。
(フィルと付き合っているクヌギは、西のラインシュタインファミリーから命を狙われています)
「……でも空間跳躍の秘法って、一年に一度しか使えないんでしょ? こりゃラインシュタインファミリー、本気だね……」
ロッタが頬に指を当てて考え込む。そして彼女は右手をあげて、声を出した。
「あ、一つ質問よろしいですか?」
「おお、アルヴァロッタ嬢! お久しゅうございまする」
アーンガットに礼儀正しく挨拶され、会釈を返してからロッタは立ち上がった。
そしてスクリーンの馬ヘッドを見上げながら、軽く首をかしげる。
「手伝うって言ったって、何すればいいんですか?」
「ええ。今回はラインシュタインファミリーに喧嘩を売るというのがどういうことなのかを、身に染みて世に知らしめるために、彼奴を生け捕りにするのが最大の目的です。Dead or Aliveでありませんので、ご注意ください。半殺しにすることは構いませんが、後の拷問はこちらで行いますゆえ、皆さんにはこちらの道具を配布させていただきます」
「今何か、さらりと恐ろしいこと仰いませんでした?」
ロッタの問いかけが聞こえなかったのか、アーンガットは、ルバロンの指示でカートを引いてきた生徒にうなずき、山盛りに盛られたカプセル型のものを持たせた。
「特製魔導爆弾です。まあ、口で言うよりも実演して見せた方が早いでしょう」
そう言って彼が、隣のにゃんこ先生と目配せをする。
うむ、とうなずいて、二足歩行の猫はステージ上をでっぷんでっぷんと歩いて、魔導爆弾を一つ生徒から受け取った。
それを
「受け取れフリンス!!」
と気合を入れて、いきなりセンに向けて投げつける。
「へぁ!?」
突然のことに対応できずに、センは一瞬ポカンとしたあと、その弾を受け取り――。
瞬間
「あばばばばばばばば!!」
と絶叫してから、体中から電気の火花を放電させた。
数秒後、唖然としている東西南北の生徒会員の前で、感電したドラゴンが、体中の穴から白い煙をたなびかせながら、ドサリとその場に倒れこむ。
「と、まあこういうものです。死にはしませんが、死の一歩手前くらいまでに追い詰め、相手の戦力を一気に無効化できる特製弾です。射擲用のボウガンもお付けしますので、非力な女性でも十分使えます。皆様に配布しますので、とにかく怪しいと思ったら一発ぶち込んでください」
アーンガットが、黒焦げになった夫(仮)に
「ノートランド!? 返事をしてノートランド!!」
と言って揺さぶっているロッタを無視して言う。
そこで慌ててアーンガットを制止し、ルバロンが言った。
「ま……まあ、あくまで保険のようなものじゃ。犯行予告時間は、今日の午前零時となっておる。パニックになるのを避けたかったため皆には今まで言わんでおったが、今が午後の六時なので、あと六時間ほどしかない。生徒会の皆にはそれぞれ街の警備についてもらうことにする。何せ急なことじゃったために、人手が足りんでな……あと、学園の結界を解除する時間がないのじゃ。そういうわけで、宜しくたのむ」
ルバロンが軽く頭を下げる。
その奥で怪しく瞳を光らせながら、アーンガットがクヌギを見てニヤリと笑った。
彼の魔力でコントロールされているのか、ふわりと、三つほど感電弾が空中に浮いた。
「ちなみに」
感電したセンを見捨て、一目散に出口に全力疾走していたクヌギに、矢のようにそれらが突き刺さる。
ドラゴン族の親友と全く同じリアクションで
「あばばばばばばばば!!!」
と絶叫し、黒焦げになって崩れ落ちたクヌギを見て、会議堂内が静まり返る。
「二個以上は、このように致死量になりますので、気をつけてくだされ」

 「そんなことになってるなら、相談してくれればよかったのに」
ロッタが頬を膨らませながら、申し訳がなさそうな顔をしているフィルに言う。言われた金髪の吸血鬼は、苦笑いしてから、傍らのアーンガットを見た。
「最初何のことだか分からなくて。丁度近くに理事長先生がいたからお話したら、こんなおおごとになっちゃったの。でもアーンガットが来てくれるなんて、馬ヘッドさんにお礼をいわなきゃいけないね!!」
力強く宣言されて、ずるりとアイカが車椅子から滑り落ちそうになる。
「やっぱり何も理解していませんでしたわね……」
電気球の実験で黒焦げになったクヌギとセンは、今保健室に運び込まれている。
クヌギは相変わらずのタフさ加減で死にはしなかったらしい。
ゼマルディは、これ以上厄介なことになると困るために、リンフロンを連れて一足先に寮に帰っていた。
いきなり男手がゼロになった西生徒会の面々は、困ったように、目の前に鎮座しているアーンガットを見下ろした。
とりあえず東、南、北の生徒会員達は捕獲用電気玉とボウガンを持って、それぞれ学園の警備に当たることになっている。
フィルが入っている西生徒会の面々は、ここ、第五会議堂で夜を明かすことになった。
一応は魔獣駆除委員会も出動しているのだが、何せザインフローの敷地は膨大な広さだ。とてもカバーしきれる者ではないらしい。
本来ならば、警察総出でフィルを守るべきなのだが、今回に限ってはそれが出来なかった。
というのも、ザインフローは特殊な魔力防護壁で球体に覆われており、一定以上の魔力を持つ者の出入りは出来ないように制限されている。それを解除するためには、やはり総合警察や政府、軍隊に出動をかけて学園の地空海を全て覆ってからでなければ出来ず、馬ヘッドの犯行予告は今日の朝方発見されたため、対処ができないということがあったからだった。
確証も何もない、いたずらかもしれないことでいちいち結界を解除していては、他の、危険な魔族の侵入を許してしまう事だってありえる。
苦肉の策でルバロンがとったのは、エネルギーの充填に一年はかかる禁呪、大陸間の大移動が可能な瞬間転移の魔方陣を使用して、フィルの実家に応援を求めるというものだった。
アーンガットやにゃんこ先生のようなケロヘルン(動物のような見た目ですが、人語を解する高等魔獣です)は結界に左右されない。一度に一人しか転移できないため、一番迅速にことに当たれそうなアーンガットを召還したというわけだ。
馬ヘッドも魔族である以上、ザインフローの結界をそうやすやすと突破は出来ないはずなのだが、予告状が届いたのは事実だった。
「とにかく、お嬢様の下着を盗もうなどと破廉恥千万。重罪きわまりない。不愉快指数がMAXを振り切れておりまする。主様の御前に引きずり出して、裏を吐かせねばなりませぬ」
「まったく破廉恥極まりない」
うむ、とうなずいたにゃんこ先生の首筋をむんずと捕まえて引っ張り上げ、ロッタは三白眼のような目で彼を見た。
「そうね……破廉恥極まりないわよね……」
「しかし、ロリコン友の会もついに大々的に動き出してきたか……離せアークシー、先生に対してなんだその態度は」
なにやら言っているにゃんこ先生を前後に振りつつ、ロッタはアーンガットを見下ろした。
「んー……でも、こう言っちゃなんですけど、いたずらじゃないんですか? 本物って確証もないんでしょう?」
「まあ、いたずらならその方がいいですな。しかし、以前にもお嬢様がロリコン友の会の標的にされたことがあったという話を聞きまして、引っかかりましてな。それに、予告状まで出されて何もせんだっては、ラインシュタインファミリーきっての名折れでございますゆえに」
「あはは……ま、まあ、ここ戦場にしないでくださいよ……」
「出来るだけ穏便に事を運ぶつもりでございます。いざとなれば殺りますので、ご安心を。令嬢方にご迷惑はおかけしませぬ」
「今なんか聞いちゃいけない台詞を聞いた気がしますけど……」
「でもアーンガット、本当に久しぶりだね。私ね、アーンガットと一杯お話したいことがあったんだよ!」
あっけらかんと笑ったフィルの顔を見て、黒犬の険しい目が和らぐ。
彼はヘッ、ヘッと舌を出して息をし、彼女に頭を顎を掻いてもらいながら言った。
「お久しぶりでございまする。では馬ヘッドが現れるまで、いろいろお話でもいたしましょうか」
「うん! 一杯遊ぼうね!!」
「誰かあの子に状況を説明してあげて……」
ロッタが頭を押さえて周りを見回す。
それに無言で首を振り、アイカが顔の前で指をくるくると回した。
「てゆうか、何かもう面倒くさいので下着くらいあげればいいじゃないですか……いいじゃないですか、命の危険があるわけじゃありませんし…………」
「あんたはもう、すぐそうやって、自分に実害がないと面倒くさがる!」
呆れた声を発したロッタを見て、隣で幽霊少女、サラサが肩をすくめた。
「でも、下着くらいであたふたする段階は、とっくの昔に通り過ぎてるような……」
「いろいろありましたからね……」
遠い目をしたルイをため息とともに見て、ロッタは彼女達を車座に引き寄せてからしゃがみ込んだ。
そしてバン、と手で床を叩く。
「こういうときこそ原点に回帰しなきゃいけないのよ。あたし達から恥じらいを取ったら一体何が残るっての? いい? 下着は女の命よ。しかもその、生脱ぎ以外集めないっていうド変態が挑戦状を突きつけてるんじゃない。とっ捕まえて懲らしめようって気にならないの!?」
「どうしてでしょう、何かいまいちインパクトに欠けるような……どうでもいいような……」
アイカがそう言って、ふぅ、とアンニュイなため息をついた。
そしてロッタのことをぼんやりと見る。
「あなたの存在自体が既にイレギュラーすぎて、下着ドロの怪盗くらいで揺らぐシチュエーションじゃなくなっちゃってるんですのよ」
「あたしの存在から否定しないでくれる!? 望んでこんな状況になってるんじゃないわよ!!」
「でも、馬ヘッドは、今回はどうやってラインシュタインから下着を剥ぎ取るつもりなんでしょう?」
そう言ってルイが軽く首をかしげた。
「今までも何百人と下着を剥ぎ取られてますけど、いずれもピッタリ犯行予告の時間に眠らされたり催眠術にかけられたりして、下着をGETされていますが……」
「ラインシュタインなら、知らずの間に逆襲しておしまいじゃないですか?」
サラサが興味なさそうに言ってから、大きく欠伸をした。
「……私もう寝たいんですけど……」
「じゃあ交替で休みましょうか。ロッタ、わたくしたちはそこら辺で寝てますのであとは宜しく」
「ぶん殴りたくなるほどの危機感のなさねあんたたち……」
「だって、フィルちゃんが黙って下着を剥ぎ取られるイメージが一ミリたりとも湧かないんですもの……」
そうアイカが言った時だった。
フィルと話をしていたアーンガットが、足を踏み出して四人の輪の中に入った。
そして不思議そうに言う。
「男子どもはどうなされた? お嬢様の一大事というのに、姿がみえませぬな」
「二人はもうじき目が覚めて戻ってくると思いますよ。もう一人は、ちょっと厄介なのが一人いるんで、そっちを担当してもらいました」
ロッタが軽く肩をすくめて答える。
そこで黒犬は、盲目のドラゴンに目をやって、口を開いた。
「おお。そなたはもしやノートランドの妹君ではあられぬか?」
聞かれ、きょとんとしてルイが
「ええ」
とうなずく。アーンガットは次々にアイカやサラサの名前を呼び
「お嬢様がいつもお世話になっております。いつもお電話にて、お話をお聞きしております」
と礼儀正しく頭を下げた。
彼の背にまたがりながら。フィルが嬉しそうに首筋を掻いてやっている。
「とにかく、お嬢様のお下着はこの老体、命に代えても守ってみせまする。ご友人方々、安心してお任せくだされ!!」
胸を張った黒犬に、生徒会女性陣が困ったように半笑いでうなずく。
少ししてロッタが、軽く首をひねってから言った。
「でも、アーンガットさんが出てくるって事は、あながちいたずらの可能性だって線はないんですか?」
「そうだといいのですが……馬ヘッドが収監されていた監獄から脱走したのは事実でする。あの封蝋も偽とは思いがたいですし……」
「うーん……でも、万が一本物でも。まあ正直な話、あたしもフィルフィルが下着をはぎとられるとは思えないんですけど……」
そこまでロッタが言った時、フィルがきょとんとして彼女に返した。
「下着? 私今日履いてないよ」
その瞬間、場の空気が止まった。
近づいてきていたにゃんこ先生までもが停止し、ましてやフィルにまたがられているアーンガットもカチン、と動きを止める。
ロッタが何度か呼吸してから、制服姿のフィルを上から下まで見て、そして言った。
「……パンツ、履いてないの?」
「うん。今日は、何だか理事長先生が危険だって言うから下は水着を着てきたの」
ペラリとスカートをめくったフィルがスクール水着を着ているのを確認し、四人は顔を見合わせた。
「むしろロリコンにはそっちの方が望ましいんじゃないでしょうか?」
ルイに言われ、フィルが怪訝そうにそれに返す。
「えー? だって、盗むものがなければ諦めて帰ってくんじゃないかなあ?」
「危険は増したと思うわ。いい? フィルフィル、狙われてるのよ? そのへん自覚してる?」
ロッタに呆れたように言われ、フィルは軽く考え込んでからうなずいた。
「うん。でも日常茶飯事だしねえ。命(タマ)の取り合いはねえ」
「お嬢様……お強くなられて……」
アーンガットが涙を呑んでいる。
「タマとか言わない。ああもう。こうなったら、フィルフィルが丸裸にされる前に、あたしらが馬ヘッドを捕まえるのよ。分かったら返事」
「出来れば捕まえるのは丸裸になったあとにして欲しい」
真面目な顔で、ダンディな声を発したにゃんこ先生の頭をガッと掴んで、ロッタは全員を見回した。
「いいわね?」
「サー、イエッサー」
やる気がなさそうに女性陣が唱和する。
「にゃんこは何か心当たりはないの? あの馬ヘッドにさ。同類でしょ?」
「人を下等な下着ドロと同レベルに扱うな!! しかし、さきほどトラレスとも話をしたのだが、あながち心当たりがないわけではない」
「何か知ってんの?」
「奴は、『おうま先生』の末裔だ」
その場が少しの間静まり返った。
「……おうま先生……?」
サラサがそう言うと、大真面目ににゃんこ先生とアーンガットがうなずく。
「世界に十二しかいない、ケロヘルンの一種族ですな。流派・真拳ひづめを使う伝説の魔獣の末裔です。つまり、我らの仲間ですな……恥さらしなことに……」
吐き捨てるように言ったアーンガットに、三白眼のような顔でロッタが返した。
「何で伝説の魔獣の末裔、下着ドロになってるんですか……?」「分かりませぬが、強敵であることに間違いはありませぬ。気を引き締めてかからぬと……」
「説得は無理だな。とりあえずお前達、身を守るだけの準備はしておけ」
にゃんこ先生に言われ、女子達は顔を見合わせた。

 それから六時間、ほぼ何事もなく時間が過ぎ、ロッタは椅子に腰掛けて寝息を立てている生徒会の仲間たちを、呆れた顔で見回した。
今現在この第五会議堂で起きているのは、彼女とアーンガット、にゃんこ先生だけだ。
ルバロンや他の生徒会員、魔獣駆除委員会は建物の外などの敬語に当たっているため、中は静かなものだった。
残り五分ほどで午前零時になるというところで、ロッタは大きく欠伸をして、アーンガットの背中で寝息を立てているフィルの頭を撫でた。
そしてボソリと呟く。
「……何この状況……」
「全員、胆力が凄まじいというか何と言うか……」
アーンガットも呆れたように呟く。
そこで彼女の携帯が着信音を鳴らし、ロッタは慌ててそれをとった。
「はい。何か用?」
『ああ、アークシーか。今病院から連絡があったんだけど、ノートランドとトランスはまだしばらく起き上がれないらしい』
聞こえてきたゼマルディの声に、ロッタは諦めた声を返した。
「まあ、期待はしてなかったからいいわよ。てゆうか今更こられても間に合わないわ」
『馬ヘッドはまだ現れてないのか?』
「ガセなんじゃないの? それかいたずらとか……静かなもんよ。狙われてる本人寝てるし」
『万が一のこともあるから、とにかく十二時過ぎたあたりでもう一回電話くれ。リンも寝たし、もしもの時は俺もそっち行くから』
「分かった。もう頼りになるのはあんただけよ……」
アンニュイに言ってから電話を切る。
彼女を見て、葉巻の煙をぷっかぁ……と吐きながらにゃんこ先生が口を開く。
「何だ? フリンス共はまだ回復せんのか?」
「自分で感電させといてよく言うわね……予想外に重症っぽいわよ」
「生きているのですか……チッ、手加減するんではありませんでしたな……」
アーンガットが聞こえないように吐き捨てる。
ロッタはまた大きく欠伸をして、そして車椅子で小さく寝息を立てている人魚の方を見た。
「とりあえず、こいつら起こします? もうちょっとで十二時ですし。いざという時は弾除けくらいにはなりますから」
「そうですな。とにもかくにも、危険なことになったら離れてもらわねば。申し訳ありませんが、起こして差し上げましょう」
アーンガットがうなずいた時だった。
ポーンと音がして、会議堂の時計が午前零時を指した。
その場が静まり返り、しばらくロッタたちが硬直して静止する。
「……何よ、何もおきないじゃない」
彼女がそう言った時だった。
不意に、ズンッという音がして会議堂のステージ中央の空間、重力そのものが大きく歪んだ。
その衝撃で周囲の空気が大きく揺れ溜まらず小さな悲鳴をあげ、ロッタがその場にしりもちをつく。
眠っていたほかの生徒会員達も、慌てて目を開けた。
重力が歪んでいる場所に、金色に輝く魔方陣が広がった。それは床や空中に回転しながら伸びていくと、やがてピタリと静止する。
「な……何これ……」
呟いたロッタを守るように、アーンガットとにゃんこ先生が低く腰を落とした。
慌てて、目を擦りながらアイカが、眠っているフィルを受け取って声を上げる。
「何がありましたの!? 馬ヘッドですか!?」
「トラレス、これは……」
にゃんこ先生が腰から剣を抜き放ち、苦々しげに言う。
「うむ……第九禁呪だ。皆の衆、危険ですじゃ。わしらの後ろに下がってくだされ」
「禁呪……? 禁呪ですって!?」
アイカが素っ頓狂な声を上げる。
そちらを見てうなずき、黒犬は体中の毛を逆立てた。
「本来大陸間の移動など、空間跳躍の魔法はそれ相応のリスクを負うものですが、我らケロヘルンの間で、自由自在にその魔法を操る種族がおるのです。私も見るのは初めてですが……とにかく、応援を呼んできてくだされ」
「わ……わかりまひた!」
今目が覚めたところなのか、サラサがうなずいて出口まで飛んでいき……そしてべしゃり、と、扉をすり抜けることが出来ずに衝突し、目を回してその場に崩れ落ちた。
「何じゃと……!?」
低い声を上げたにゃんこ先生にかぶせるように。
そこで、甲高い笑い声が響いてきた。
「ハァーッハッハッハッハッハッハ!!」
「……何かデジャヴしか感じないんですけど……」
呟いたロッタたちの目の前、大きく広がった魔法陣の中から、腕組みをして胸が大きく開いたタキシードを着た人影がゆっくりとせりあがってくる。
どうやら、その空間転移の禁呪魔法で、直接ここに飛んできたらしい。
「無駄さ! この建物はもう僕の封印魔法の中にある!!」
さわやかな声とともに、魔方陣からでてきた人影……。
白馬の頭部をした男性は、フワッサァ! とたてがみを揺らして、勝ち誇った声を発した。
「うわぁ本当に来ましたね……」
特に大したリアクションもなく、アイカがぼんやりと呟く。
圧倒的にテンションが低いギャラリーの前で、馬ヘッドはタキシードの裾をピン、と延ばすと大きくポーズを作って見せた。そして手に持っていた白い薔薇を周囲に振りまき、パチン、と指を鳴らす。
服のどこかに魔法録音機でも仕込んであるらしく、そこで激しい第九の音楽が流れ出した。
「フハーッハハハハハ!! 怪盗! 馬ッ! ヘッドッ!! ここに見ッ! 参!!」
虚しく鳴り響く音楽の中、静まり返って馬ヘッドを見る女性陣とヘロケルン二匹を見回し、彼は特にリアクションがないことに気づいたのか、無言で首もとのスイッチを押した。
音楽が止まり、数秒間静寂があたりを包む。
「…………あれ? 出てくるとこ間違えたかな…………」
呟いた馬ヘッドに、ルイが大きく欠伸をしながら、興味がなさそうに言った。
「いえ、まあおおむね合ってますよ。てゆうか、禁呪まで使って何しに来たんですか?」
いきなりフレンドリーに話しかけられ、素になったのか、馬ヘッドは少しの間停止し……そして人魚に抱えられて眠っているフィルを見つけ、パチンッと指を鳴らした。
「我が愛しの姫君よ!! さぁ今宵も楽しい宴の始ま」
「死ねええ!!」
彼のセリフを中断する勢いで、にゃんこ先生が手に持ったボウガンの引き金を引く。
バヒュン、と飛んだ電機玉は寸分たがわず馬ヘッドの股間に突き刺さり、次の瞬間彼は
「あばばばばばばばばば!!!」
と激しく痙攣し、股間を押さえてその場に崩れ落ちた。
思わずアーンガットが目をそむける。
まだビクンビクンとうごめいている馬頭のタキシード男を見ながら、アイカがポツリと言った。
「……あの……何しに来たんですか?」
「もう二、三発ブチ込んでおくか……?」
女性陣の醒めた口調とは裏腹に、脂汗を浮かべながらにゃんこ先生が言う。
興味を失ったのか立とうとしたルイに
「お待ちくだされ!」
と慌てて声を発し、アーンガットはにゃんこ先生を背に乗せて、魔力を集中し始めた。
「来ますぞ!!」
「え? 来るって、何が?」
きょとんとしたロッタの目に、股間を押さえながら、妙に内股で、ブルブル震えつつ馬ヘッドが立ち上がるのが見える。
彼は青ざめた顔でにゃんこ先生とアーンガットをにらみつけると、震える声を発した。
「……な……何をする……」
「黙れヘロケルンの面汚しめ!! 神妙に縛につけ!!」
アーンガットに怒鳴られ、震えながら、しかし不適に、ニヤリと馬ヘッドは笑った。
「ふふ……誰かと思えばにゃんこ一族とわんこ一族のおじさん達じゃないか……そんなコケ脅しの電気玉で僕のこの情熱を止められるとでも思ってるのかい?」
「おもっきし喰らってなかった?」
ロッタの突っ込みを無視し、回復したのか、彼はタキシードを翻して、その場に両腕を広げてポーズを作ってみせた。
「この会議堂は僕の魔法で外界とシャットアウトさせてもらった!! おとなしくパンツを指しだせば命まではとらない!! 抵抗するとためにならないぞ!!」
脱力満点のセリフを吐きながら、彼は、パンッと両手を胸の前で打ち合わせた。
そして魔力を集中する。
「出でよ馬ヘッドラバーズ!!」
彼を包んでいた魔方陣が大きく横に広がり……そして、その光に包まれた椅子や教壇が粘度細工のように歪んだ。
次いでどろりと溶け、次々に馬頭の白いマネキン人形のように変化していく。
数にして二十を超える馬ヘッドマネキンは一斉に拳を天に突き上げた。
「ゴ……ゴーレム……(魔法で生成する動くドロ人形のことです)こんな短時間で!?」
そこでやっと危機的状況を理解したのか、アイカが頬に手を当てて声を上げる。
「ふはははははは! ゆけい馬ヘッドラバーズ!! 令嬢のパンツを奪ってくるのだ!!」
馬ヘッドの声を受け、ゴーレム馬ヘッド達がばらばらとこちらに駆け出してくるのが見えた。
「……くっ! 性懲りもないことに貴重な禁呪を使いおいって……」
にゃんこ先生が、襲い掛かるゴーレムを見ながら呟く。
「人のこといえないと思うな……」
ロッタの呟きを無視し、彼は自分が乗っているアーンガットに言った。
「仕方ない! 久しぶりにやるぞ、トラレス!」
「うむ。『キャットアンドドッグ』だ!!」
意味不明の叫び声を上げ、二匹が魔力を前方に集中する。
アーンガットの背中で両拳を腰の脇で固め、にゃんこ先生が体中に力を込めた。
「日輪の力を借りてェェ!! 今! 必殺の!!」
アーンガットが口を開き、次いでその口中に、高周音を立てながら、何か空気の渦……魔力の塊のようなものが集まっていく。
彼はにゃんこ先生の声を受けて、大声を上げた。
「合体にゃんわん真拳!!」
「「キャットアンドドッグ!!」」
二匹の声が見事にシンクロし、アーンガットの口中に集まった、にゃんこ先生の力もプラスされた魔力の渦が、竜巻のように噴出される。
それは周囲の座席やステージの一部を大きく削り飛ばしながら、襲い掛かる馬ヘッドラバーズを全て巻き込み、粉々に破砕しながら突き進み、壇上でポカンとしていた馬ヘッドに突き刺さった。
「ぶぅぁぁあああ!!」
悲鳴を上げて吹き飛ばされた馬ヘッドが、回転しながら、第五会議堂の壁……地面から十メートルほどの地点にべしゃりと突き刺さる。
そしてそのまま、二匹のケロヘルンによって放たれた魔力は、馬ヘッドごと、結界に覆われた会議堂の壁を貫通して向こう側に抜けた。
しばらくして、パラパラと瓦礫が降り注ぐ会議堂の中で。
くりから白い煙を吐き出しながら、アーンガットが軽くうなり声を上げる。
「だめか……来るぞ! シュマルケン!!」
状況についていけずにポカンとしている生徒会員達の前で、にゃんこ先生が腰の剣を抜き構える。
と、そこで彼らの後方、その空中に魔方陣が浮かび上がり、にょきっ、と黒焦げになった馬ヘッドが現れた。彼もタキシードの腰に差した剣を抜き放ち、魔方陣から転がり落ちがてら大声を上げる。
「ひづめ真拳奥義ィィ!! 斬馬刀ォォ! 二の太刀!」
見て分かるほどに多量の魔力が込められた片刃の長剣が、迷いなく、馬ヘッドの全体重とともににゃんこ先生に襲い掛かる。
しかし二足歩行の太った猫は、振り向きざまに跳躍し、自分の剣でそれを受け止めた。
ゴゥッ! という音がして周囲に魔力衝突による突風が巻き起こる。
「ぐぅぅぅ!」
数秒間歯をかみ締めていたが、やがてにゃんこ先生と馬ヘッドは、互いに逆方向に弾き飛ばされ、空中を何度か回ってから、数メートルずつスライドしつつ着地した。
「なんてバカ力じゃ……」
肩で大きく息をつきながらにゃんこ先生が呟く。
それを見て、ニヤリと馬ヘッドは笑った。
「……まさか斬馬刀が止められるとは……さすが伝説の剣豪の名は伊達じゃないな……しかし今回の目的はあなたたちではな――あばばばばばばばば!!!」
カッコいいセリフを言っていたような気がするが、そこで馬ヘッドは硬直して、目を見開き、ビクンビクンと痙攣し、絶叫した。
わき腹に電気玉が突き刺さっている。
少し離れたところで、無表情でボウガンを構えている車椅子の人魚が、隣のルイから次弾を受け取り、ボウガンに装てんした。
そして感電している馬ヘッドにもう一発打ち込む。
「ぎゃばばばばばばばば!!!!!」
二発わき腹に喰らって、馬頭の青年が黒焦げになって、悲鳴を上げながらその場に膝をつく。
アイカは無表情でもう一発打ち込み
「あばびゃ!」
さらにもう一発打ち込み
「……ッッ!!!!!」
ついでに悲鳴が聞こえなくなったのを確認してもう一発トドメに打ち込んでから。
「……………………」
ものすごくさっぱりした顔で、ボウガンを脇に投げ出した。
そして唖然としている周囲を見回して、きょとんとした声を発する。
「……あら? 何をしているんですの? 早く捕まえませんと」
「いや、死んだんじゃないこれ……?」
ロッタが恐る恐る、消し炭のようになって転がっている馬ヘッドに近づき、ツンツンと指でつつく。
反応がない。
「ここまでやることはないんじゃないかな……」
彼女があわれみをこめた声でそう言った時だった。
「残念! それは私の影分身さ!!」
元気のいい声が聞こえてきて、周囲の時が止まった。
タキシードを抜ぎすて、フンドシ一丁になった馬ヘッドが、体中に鳥肌を立てながら、眠っているフィルを抱いてポーズを決めていた。
寒いらしい。
とても気持ちが悪い光景だった。
「し……しまったァァ!!」
アーンガットの絶叫を聞いてほくそえみ、馬ヘッドはパチンと指を鳴らした。黒焦げになっていた方が、途端にボロリと土の塊に崩れ落ちる。どうやら途中からゴーレムにタキシードを着せて入れ替わっていたらしい。
「おっと動かないでください。君たちはそこで己が無力をかみ締めながら、僕がパンツをいただく姿を見ていてもらおうか!!」
まだ眠りこけているフィルのスカートに、好都合とばかりに馬ヘッドが手をかける。
「おじょおぉさまあああ!!」
アーンガットが絶望的な声を上げた時だった。
「ふふふ……西の魔王の愛娘、フィルレイン・ラインシュタイン嬢のパンツがついに我が……我らが手の中に!!! 手の中にィィィ!! あばばばばばばばば!!!!」
途端に今度は、正真正銘の悲鳴をあげ、彼女のスカートを握ったまま馬ヘッドがガクガクとその場に硬直する。
ファスナーの部分、つまりスカートのポケットにあたる部分に電気玉が詰め込まれていて、それを掴んでしまったらしかった。
思いっきり感電している馬ヘッドに抱かれていて、しかしその状況でも大きく欠伸をし
「……なんかピリッとするよお……」
と呟き、フィルが目を覚ます。
そして、体中の穴から白い煙を噴出しながら、ガクリと膝を突いた馬ヘッドの手から抜け出し、不思議そうに首をかしげた。
「……あ、馬ヘッドさんだ!」
まだ彼女のポケットに入った電気玉は放電を続けている。
フィル自身は知らずに肌の周りに張り巡らせている魔力の層で、感電には至っていないらしい。
「こんにちは! 今回は楽しかったよ!! ありがとう!!」
屈託のない笑顔でそう言い。
フィルはバチバチと帯電しながら、崩れ落ちた馬ヘッドの両手をガッシリと握り締めた。

 「結局なんだったのかしら……何しにきたのかしらあの人……」
魔獣駆除委員会に連行されていった馬ヘッドを見ながら、ロッタが唖然と呟く。
「フィルちゃんの回復力と魔力なら大丈夫だと思って、万が一の時のためにポケットに入れておいてよかったですわ」
アイカが大あくびをしながらそう言い、床に伸びていたサラサをたすけ起こした。
「吸血鬼は雷に強いという話を前に聞いたことがありまして。魔力が雷の性質に似ているらしいのです。本当だったみたいですわね」
「ひどいことするわね、あんた……」
呆れたような親友の声を聞きながら、彼女はアーンガットに心配そうに質問を投げかけられているフィルに視線をやった。
「お嬢様! 何もされませんでしたか? 大丈夫ですか!?」
「うん。何か馬ヘッドさん、具合が悪かったみたいだね!」
「爺の寿命は三百年ほど縮まりましたぞ……」
そのほほえましい光景を見ながら、アイカが傍らのボウガンを椅子において、大きくまた欠伸をした。
「とりあえず、どうすんのよこれ……」
白い薔薇と第五会議堂の屋根に空いた大穴、崩れ去った室内を見回してロッタがため息をつく。
車椅子の人魚はそれをぐるりと見回し。
そして、軽く息をついてから、肩をすくめた。
「まあ……とりあえずもう、夜遅いですから。寝て、明日考えましょう。いいんじゃないですか? 実害はなかったんですから」
その声は、夜風吹きすさぶ建物の残骸の中で、淡々と響いて消えた。

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コメント

今回は…いろんな意味で趣味丸出しだったような気が…特に馬ヘッドの群れが…。伝説の奥義、「キャットアンドドッグ」がかわされるなんて思いもしませんでした。まともに食らえば確実に昇天したはずなのに。二人ともシェイプアップした方が良さそうですw

投稿: シロガネ ケイイチ | 2009年2月14日 (土) 20時24分

何でこんな話を書いたのか……
馬ヘッドはこのあとどうしましょうね……
キャラ増やしすぎてよくわかんないことになってますよ

キャットアンドドッグは突撃技のはずだったんですが、何か書いてる途中でどうでもよくなって放出系の念技になってしまいました
放出した方が何かと書きやすいんです。

投稿: マツサガシン | 2009年2月21日 (土) 23時28分

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