« ラルロッザの学園都市 Q&A | トップページ | ラルロッザの学園都市 SS27 »

2009年2月 7日 (土)

ラルロッザの学園都市 SS26

ギャグ編 SS26 セントバレンタイン

 「よし、塔の中に女どもはいないな」
生徒会室の脇にある仮眠所の墨にしゃがんだセドラゴン族の生徒会長、センシエスタ・ノートランドが小さな声で言う。
それにうなずき、隣にしゃがんでいた……それでも座高一メートルは超えている怪鳥族の大男、クヌギ・トランスがひそひそ声で応えた。
「今のところは……大丈夫なはずだ」
「クラウン、そっちはどうだ?」
聞かれ、窓のほうにしゃがんでいた牛角の少年、ゼマルディ・クラウンがそっと顔を窓の外に向け、慌ててまたしゃがみ込んだ。
外の方から一団と大きくなった女の子のもののような歓声が聞こえる。
「だめだ。畜生、完全に包囲されてる……」
「誰だよここに隠れればいいって言ったのは……」
「ノートランド、お前がここに逃げ込んだのが悪いんだぞ。とっとと行って全員分の愛を受け取って来い」
クヌギに言われ、センはブンブンと首を振って答えた。
「殺されるわ! 生徒じゃねえ奴らも混じってんじゃねーか!」

いまやこの、西生徒会塔はおびただしい数の女の子に包囲されていた。先ほどエレベーターの動力パイプは切断し、裏口に通じる出口も、内側から封印魔法で封鎖したため、誰も昇ってこれず、しかし引くこともできないという異様な状況になっている。
塔を包囲している女の子たちは、少なく見積もっても三百人は超えている。
一、二学年分を合わせても足りないくらいの人数だ。中には生徒ではない、OLなどと思われる人も混じっている。
全員手になにやらの紙包みや紙バックを持っていた。
阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
全員が塔の最頂点にいるはずのセンやクヌギの名前を呼んでいる。
「てゆうか俺、関係ないのになんでこんなことになってるんだろう……」
ボソリとゼマルディが呟き、イラついたように二人の学園アイドルをにらみつけた。
「トランスもひとごとみてーな顔してるんじゃないぞ! お前らのことを呼んでるんだから、いいから下行って収集つけてこいよ!」
「断る! 殺されるだろうが!」
センと全く同じリアクションをした大男を呆れたように見て、そして牛男は息をついた。
「このままほっといたら、魔獣駆除委員会が出動する羽目になるかもしれないぞ」
「むしろ駆除してほしいんだが……」
「今回ばかりはお前の存在感のなさがうらやましいぞ、マルディ」
「うるせーよ!」
言われて、ゼマルディは頭を押さえて、そしてまた窓の外をチラリと見た。
続々と女の子達が集結してきている。
「まあ確かに……ハゲになるなこれ……」
今年のバレンタインデーがこんなことになったのは、ひとえに今女の子の間で流行っている情報誌『CANCAT』に、有名らしい占い師が、結ばれるためのある方法を載せたことが原因だった。
その方法とは、バレンタインデーに、自分の髪の毛を一本入れたチョコレートを好きな相手に渡し、逆に相手の髪の毛を一本もらってお守りにするというものだ。
何か既に呪術の方面に行っているような気もするが、この年頃の女の子は感化されやすい。
普段は女子に対してめったに邪険にすることはないセンと、数週間前に騎馬戦の全国大会で優勝を飾ったクヌギの二大アイドルがその標的にされるまでに、さほど時間はかからなかった。
というか、今週号のCANCATの表紙が二人だったのだ。レモンを持って笑っている二人の写真と、中にはインタビューまで載っている。あおり文句は
『僕らはみんなの愛を受け止めます!』
とあった。勝手に書かれたらしい。
「お前ら両方とも彼女がいるだろ! 厄介なのが二匹! 責任とってこいって! 俺を巻き込むな!」
バシーンと手の中のCANCATを床に叩きつけてゼマルディが怒鳴る。
「そんな冷たいこというなよ」
「数少ない仲間じゃないか」
センとクヌギに言われ、ゼマルディは彼らの手を叩き落しながら携帯を取り出した。
「触んなバカ共! もうルイに連絡してどうにかしてもらうぞ」
「そうだな……そろそろこの建物は限界が近いだろうし……」
クヌギがうなずき、センを見る。
「ルイシエンタに暴れてもらって(変身してもらって)、その隙に逃げよう。適度に手加減できる戦力があいつくらいしかいないし……ちょっとさすがに、逃げないと、今回は殺されかねんぞ。女子たちは、俺たちの髪をむしろうと必死だ……」
「やむを得ないな……これ、どうしようもないな……」
彼らがうなずきあったところで、センの携帯が着信音を鳴らした。ビクッとして彼がそれを手に取り、蓋を開き、青くなった。
「誰から?」
ゼマルディに聞かれ、彼は真っ青な顔のままそれに答えた。
「……ロッタからだ……」
「……とれよ……」
「…………ああ…………」
うなずいて、センがボタンを押し、携帯を耳に近づける。
そして彼は少し息を吸い、素直な声で言った。
「ごめんなさい」
『御託はいいわよ! 何これどうなってんの! 生徒会室に近づけさえもしないじゃない!』
ヒステリックな声が向こう側から聞こえてくる。
「俺たちが聞きたいよ……CANCATが、どうやら、好きな相手の髪をお守りにすると願いが成就するとか書きやがって、で、俺たちは今殺されかけている。どこにいんだよお前」
『噴水のとこよ。てゆうかどんなバレンタインデーよ! 何でそこから死に繋がるの!?』
「お前CANCAT読んでないの……?」
『あたしが読むのは新聞と織り込みチラシだけよ!』
「ああ、そうなんだ……まあいいから。ちょっとルイに蹴散らしてもらって、避難するから。よけいなことすんなよ? 分かったな? できればみんなにもよけいないことすんなって伝えてくれ。お前らに任せると絶対死人が出る」
『うぇ? 何よく聞こえない! あ、ちょっとこら!』
電話の向こうでロッタが声を荒げ、そこで電話が奪われたのか、向こう側から甲高い大声が響いてきた。
『パパさま! バレンタインのチョコを山ほど買ってきたの!』
「お前ら耳をふさげ!!」
娘の声を聞くなり、センが携帯を放り出して、慌てて両手で耳をふさぐ。
クヌギとゼマルディも慌てて身体を丸めて衝撃に備えた。
『でも、愚民共が邪魔なの。パパさままっててくださいなの。お姉ちゃんの手を煩わせるまでもなく私が障害を排除するの!!』
『そうよパパッとやっちゃいなさい!』
『了解なの!!』
次の瞬間、周囲の空気がズンッと音を立てて揺れた。
震度七強の地震が襲ってきたように、建物と空気、地面がビリビリと音を立ててブレる。
脳や内蔵全てがシェイクされたかのように揺れ、パンパンパンと音を立てて強化ガラスやシャンデリアが次々に破裂し。
数十秒後。
その高周波のような音は収まっていき、代わりに周囲は沈黙に包まれた。
生徒会室の中は、建物内だったため音が反響し、増幅されて壁や床に放射状にひびが入っている。
男子三人はその隅に無造作に転がって白目をむいていた。
塔の外では、噴水の端に腕組みをして、冷たい目で前を見下ろしている女の子が一人いた。
大きな胸をそらし、背中に四枚のトンボ羽を広げている夏妖精の少女、アルヴァロッタ・アークシーだった。
耳には魔力封印がなされた耳栓が嵌められている、
その足元で、口から白い蒸気を噴出しながら、目をらんらんと赤く輝かせた、、白赤メッシュの髪の毛をした、七歳児ほどの女の子がすっくと立ち上がった。
そして軽く息をつき、傍らの母(仮)を見上げてニッコリ笑ってみせる。それに笑い返し、さっぱりした笑顔でロッタはうなずいた。
耳栓を外して彼女はいった。
「すっきりしたわね。行くわよリン」
「はいなの!!」
三百人以上の女の子達全員が、折り重なって死屍累々と倒れている。
その間を縫って歩きながら、母娘(仮)は、実にすっきりした笑顔で塔の階段に手をかけた。

 「何をするんだお前たちは……」
ソファーに背中を丸めて腰掛けながら、センは呻くように言った。
額に氷嚢を当てているが、先ほどのリン……つまり彼の娘であるマンドルゴラの叫び声の直撃を浴びたため、まだ目の前がグルグルと回っている。
同様に隣のソファーではクヌギが背中を丸めて座っていた。
ゼマルディが深いため息をつき、同様に頭に氷嚢を当てながら、粉々に砕け散っている生徒会室と、ヒビが走った壁を見ていった。
「殺す気か……」
「結果としては死人は出なかったんだからいいじゃない」
ケロリとして言ったロッタに牛男は首を振って言った。
「大惨事じゃないか。今頃第一病院はフル回転してるぞ」
「明日の朝刊の見出しは、またお前の写真が一面掲載されるんじゃないか……?」
「いいのよ。そのためにちゃんとポーズ作って噴水に登ってきたから。最近その路線で行こうと、ふと思い始めてきたの」
「開き直りやがった……リン、お前、あれだけ人ゴミの中で叫んじゃいけないって言ったじゃないか……」
ゼマルディに言われ、センと南の大魔族、カランフロンの子供(禁呪で勝手に生成された娘です)であるリンフロンは、自分で買ってきたチョコの包みを開けてバリバリと食べながら、きょとんとしてゼマルディを見た。
「ちゃんと手加減したの。愚民共にはあのくらいやらないと、ちゃんとした略取はできないの。九十パーセントの恐怖と十パーセントの希望が支配のコツなの」
「ママの言っていることをよく理解しているようね、リン。いい子よ」
「はいなの!」
「どんな手なづけ方してんだおめーは! ほら、パパさまなんとかいってやんなさい! 娘が悪の道に突き進んでるぞ!」
ゼマルディに背中を押され、センは顔を上げ、そして冷たい目で自分を見下ろしている彼女をチラリと見てから、頭を降ろした。
「……ごめんなさい……」
「分かればいいのよ」
「何一つとしてわかんねーよ! もうほんと、お前らの関係って一体なんなんだよ!」
ゼマルディに激しく突っ込まれながら、ロッタは軽く首の骨を鳴らして、そして懐をガサゴソと漁りながら言った。
「……だからCANCATの取材なんて断りなさいってあれほど言ったじゃない。ちゃんとあんた、貞操は守り通したでしょうね……」
「一個ももらってないよ……」
「よろしい。ほんと、毎年毎年大変ね……だけど今年からは、あんたには他の女には指一本触れさせないわ。理解したら返事しなさい」
「理解しました」
「すんなよ。落ち着けアークシー。たかがバレンタインに何で殺気MAXなんだお前? そこまで本気になるものじゃないだろ。殺す殺さないはもう」
「マルディ、これは家族の間の問題なの。ちょっとだまっててくれる?」
冷たく言われ、ゼマルディが
「はい……」
といって口をつぐむ。
「こいつは目を離すとすぐ他の女に走るからね……これからはあたし達で管理することにしたのよ……」
「何があったんだ、お前らの間に……」
「一昨日師匠と一緒におっぱいパブに行っただけだよ……」
ボソリとセンが呟く。
「いいじゃないか……俺だって揉みたいときがあるんだよ……」
「お前それはまずいだろ……」
「最低だなノートランド」
男子二人から非難の声を浴びせかけられ、センはバンッとテーブルを叩いて開き直った。
「ああそうさ最低さ! だが最低であるがゆえに俺は一定期間ごとにおっぱいを揉まないとやっていけない人間なんだよ!!」
「黙りなさい。その件を許した覚えはないわ」
「はい……」
素直にセンが、尻尾を垂れ下げて服従の姿勢を示す。
一昨日彼女たちの間に何があったのかは想像するだに恐ろしい。
そういえば昨日、センの寮の方で爆発騒ぎがあったな……と何となく思い出しながら、ゼマルディはため息をついた。
「そんなにノートランドの浮気が心配なら、お前のバカでかい胸でも揉ませてやれば解決だろ」
「あたしの胸はあたしだけの胸よ。それ以上でもそれ以下でもないわ」
「もう既に言ってる意味が分からないな……」
「とにかく。今年のバレンタインはこいつに近づく女子はすべて排除することにしたの。浮気する対象がいなければ仕様がないでしょ……」
「くそ……いっそ殺せ……」
「何か言った?」
「いえ、何も言っていません」
「分かればいいのよ。分かれば。まあそういうわけだから、こいつは持って帰るわ。いくわよセン。立ちなさい」
ロッタに命令され、コクリとうなずいてドラゴンが立ち上がる。
そこで、上空にプロペラの音が響き渡った。
大きなプロペラを回転させた飛行船の、気球部の上にやはりプロペラがいくつもついている。
小型のプロペラ飛行船は、学園都市の結界に触れるギリギリの位置で、静止した。
その窓から何か小さな人影が身を乗り出して、バタバタと手を振っている。
しばらくして、拡声器で声を大きくしているのか、周囲に大声が響き渡った。
「センシエスタ様ァァ! チョコをお持ちしましたあああ!」
次いで、飛行船の下部が開いてバラバラと何かが投下された。一抱えほどの段ボールはあるそれには、一つ一つパラシュートがついていて、次々に学園に降り注いでいく。
「ひいい! 何か落としたぞ!」
「あれカランフロンじゃないのか!?」
パニックになっているゼマルディとクヌギを一瞥し、ロッタはきわめて冷静な動作で、テーブル脇のペンスタンドに立ててあったハッタヤ鉛筆(SS21話参照)を一本抜き
「ふんっ!!」
と気合を入れてありったけの魔力を注ぎ込んだ。それを振りかぶった右手で、飛行船に向けて投げつける。
一本の光の矢のようになった鉛筆は、あっさりと壁と、空の上の飛行船を貫通すると。
次の瞬間、船が――轟音を立てて破裂した。
機関部を狙って投げたらしい。
上空十五メートルほどできのこ雲を上げている残骸を唖然と見て停止している夫(仮)の首根っこをむんずと捕まえると、ロッタはくいっとリンのほうを見て、親指で出口を指した。
「帰るわよ」
「はいなの!!」
ずるずると引きずられていくセンを見ながら、クヌギとゼマルディは顔を見合わせた。
彼の助けを求める視線が非常階段に消えたのを確認し、ボソリとクヌギが呟いた。
「あいつと付き合わなくてよかったな……」
「迷いや躊躇がないもんな……」
「とりあえずここから離れよう。またいつ髪を抜きに民衆が押し寄せてくるやも分からん」
「ああ。乗せてってくれ」
「任せろ」
もう半ば倒壊している生徒会塔の中で、クヌギが巨大鳥に変身を始める。
その首につかまり、周囲の惨状と、飛行船の残骸が落っこちたらしく、燃えている街の隅を見て、深いため息をついた。

 「そんな大変なことがあったんだねえ」
制服にエプロンをつけた金髪の少女――吸血鬼のフィルレイン・ラインシュタインに言われ、クヌギは深く息をついて肩をすくめた。
「髪がなくなるかと思った。というかお前たちは何も気づかなかったのか?」
「私たちはずっとここでチョコ煮込んでたしねえ」 
女子寮のフィルの部屋に何とか入り込んで身を隠して少し時間がたつ。追っ手は何とか撒けたようだ。
フィルはキッチンに立っている盲目のドラゴン、ルイシエンタ・ノートランドの方を見た。
「ねえ、妹さん?」
「ええ。私たちは、授業が終わったらすぐにチョコを作りに来ましたから。それにしてもににさまはおモテになりますから、今回のCANCATも、ずいぶんと軽率なことを書きますねぇ」
ひとごとのように言っている。
部屋の隅に設置された魔導テレビから、ニュースキャスターの声が聞こえてきた。
「夕方五時になりました。ニュースをお伝えします。午後四時付近に、ザインフロー魔導学園の敷地内で、何らかの魔法の暴発と思われる炸裂があり、少なくとも三百人に及ぶ民間人、および学生が巻き込まれました。現在第一、第二病院で治療が行われておりますが、重症者、死者は出ていないとのことです。また、同時刻に学園敷地上で一機の飛行船が謎の爆発を起こしました。乗っていた運転手を含めて二人は、現在敷地外の病院に収容されています。命に別状はないとのことです。それでは魔獣駆除委員会の会見VTRをごらんください」
「カランフロンはあれで死ななかったのか……」
ゼマルディがそう言って、そしてキッチンでチョコの鍋をかき混ぜている彼女……ルイに言った。
「何か悪いなぁ。わざわざ作ってくれてたのか」
「ええ。ラインシュタインに教えてもらってはいますが。しかしマルディ、そんな大変な状況になっているなら、早めに私を読んでくれればよかったのに」
「呼ぼうとしたんだけど、アークシーが襲撃してきてどうしようもなかったんだ……」
「で、二人ともチョコもらったの?」
ニコニコしながらフィルが言う。
クヌギは息をついて、カバンの中から何個か包みを引っ張り出した。
「下駄箱に入っていた。どうしたものかと思ってな……」
「もらったんだ」
ふーん……とうなずいて、フィルは笑顔のままその包みを抱え上げ、めしゃりと握りつぶした。
そして脇に置いてから、唖然としているクヌギに言う。
「他には?」
「ま……待て。アークシーだけじゃなかったのか……?」
「ああ、マルディ。もしやと思いますけど、今日、チョコもらってきていませんよね?」
くるりと振り向いて、笑顔のままルイが言った。
ビクッとしてゼマルディがカバンを背後に隠す。
「な……なんだよいきなり」
「あら? ちゃんとCANCATの記事を読んでいないんですか?」
不思議そうに言って、ルイは続けた。
「あのチョコ生成法は呪術の類で、雑誌の通りに作ると、食べた相手に一時的に魅了の魔法がかかってしまうんです」
「危なかったよー」
フィルが息をついて、そしてゼマルディの方を向いた。
「マルディも早く出して。髪の毛を入れてトルコンドの粉を入れたチョコを食べると、鳥の魔法がかかっちゃうらしいの。始めて見た異性を好きになっちゃうんだって。CANCAT、今週号回収騒ぎになってるんだよ?」
「だからアークシーがあんなに必死だったのか……」
牛男がうなずき、カバンを手に取ろうとして、そこに何もないことに気がつききょとんとした。
「あれ……?」
ポカンとして振り返る。
そこで、彼は硬直した。
バリバリと音を立てて、何か巨大なものがゼマルディのカバンを食い破り、包みごと、チョコをむさぼっている。
彼も下校間際に靴箱に入っていたのを持ってきていたのだ。
大きい。
全長四メートルは超えているだろうか。
フィルの部屋は寝室などかなりの大きさに分かれており、本棚も多いため今まで分からなかったのだが。
『それ』は、ズン、と足を踏み出し、チロチロと舌を震わせた。
「あー、ダメだよー。怪しいもの食べちゃだめだってばー!」
フィルがそう言って駆け寄る。
クヌギが振り返り、そして呆れた声を発した。
「おいおい洋室に入れておけって言ったじゃないか」
「あんな狭いところに入れてたらかわいそうだよお」
「な……なんだこれ……」
震えつつ立ち上がった彼を見上げ、フィルはあっけらかんと言った。
「カフカグルンスルザだよ」
確か半年ほど前(SS1話、2話、8話参照)フィルの頭に乗るくらいの大きさだったはずの、ヘビトカゲ……石化の魔目を持つ魔獣、カフカグ・ルンスルザが――半生体になったらしい、全長四メートルを超える巨大な白い爬虫類がそこにいた。
唖然としている彼の前で、フィルが
「あっ」
と声を上げて口元を押さえる。
ルンスルザがチョコを食べてしまったのに気がついたらしい。
ポカンとしている彼の前で、白いヘビトカゲはしばらくの間、ゼマルディをじっと見つめた。
その肌が段々ピンク色に変色してきて――。
やがて、ルンスルザは目にも留まらない速度で牛男に襲い掛かると、その太い胴体で彼をからめとった。
「ひいい! 何か襲ってきた!」
「まずいな……鳥の魔法がかかったか……」
クヌギがボリボリと頭を掻きながら息をついた。
フィルが、強くゼマルディを締め付けているルンスルザを慌てて止めようとしている。
しかし飼い主の言うことを聞かずに、完璧にピンク色に肌を変色させた魔獣は、チロチロと舌で彼の頬を舐めていた。
どうやら求愛の行動らしい。
「てゆうかこれ…………メスだったのか…………」
苦しげな声がゼマルディの口から漏れ。
そして、チョコの匂いにまぎれて消えた。

|

« ラルロッザの学園都市 Q&A | トップページ | ラルロッザの学園都市 SS27 »

ラルロッザ ショートストーリー」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1030729/27872404

この記事へのトラックバック一覧です: ラルロッザの学園都市 SS26:

» ゼロクラウン ゼロクラウンの魅力 [ゼロクラウン ゼロクラウンの魅力]
ゼロクラウンはスタイルも素晴らしいが その性能も最高の車です。 ゼロクラウンの魅力を解説してみます。 [続きを読む]

受信: 2009年2月 8日 (日) 18時38分

» 池袋セクシーキャバクラボンバー [ボンバー]
東京・池袋のセクシーキャバクラ。可愛い素人ギャルとセクキャバプレイを満喫。 [続きを読む]

受信: 2009年2月14日 (土) 15時35分

» 占い師の求人募集転職情報ネットナビ [占い師の求人募集転職情報ネットナビ]
高待遇な占い師の求人募集転職情報のことならお任せください [続きを読む]

受信: 2009年2月20日 (金) 15時17分

« ラルロッザの学園都市 Q&A | トップページ | ラルロッザの学園都市 SS27 »